やり直し

さあ、始めよう。

1年前の生活を。

出会う前の日に戻って、一人からやり直し。

簡単な事だよ。
1年分を、すっぽり抜き取って繋ぎ合わせればいい。

忘れる必要なんてない。
なかった事にしてしまえば。

寂しいとか、悲しいとか。
無かった事にしてしまえば、感じる必要もない。

知らない事なら、何かを感じる事も無い。

泣く必要なんて無いんだよ。
何回泣けば、忘れられるだろう・・・なんて不毛な思いもしなくていい。

出会う前の日に戻って、一人からやり直せば。

あなたの世界

見えてますか?
これが、あなたの世界。
細かく言えば、あなたの世界の一部。

手を差し伸べるつもりはありませんか?

そんな事より
これは、あなたの試練だと
生きるための試練だと
暖かいはずのあなたの目で
見守る予定ですか?

これを、同じ世界だと言いますか?

あなたの愛はどこにあるのでしょう?

あの穴は、遺体を埋める穴。
到着するのは、遺体を積んだトラック。
そこかしこに横たわる息絶えた人々。

これが、私のいる世界でしょうか?

これが、あなたの愛した世界ですか?

廃墟の中で

愛が一つ消えていきます
手と手を握り合った事が嘘のように
抱き締め合っ事が嘘のように
幻の中で起こった出来事のようで
それは思い出の中だけでしか存在できず
立ち入ることができない
知らない人の空想の世界のようで
固く組み合わされた時間が
気付くと
ポロポロと
積み上げられた石が転げ落ちるように
散乱して
原型をとどめない
廃墟の中を歩き回っても
何も見つけられないように
時間が過ぎて行くだけで
壊れた時間を積み上げる事はできず
ただ あてもなく
時間の廃墟をただようだけの

絶望

脇道のない、ただその時に向かう道だけが
目の前に
引き返す道はすでに崩れ去り
立ち止まる時間さえ
与えてはくれない
追ってくるのは
切り立つ崖になっていく
進んできたはずの道
踏み外せば 這い上がれない奈落の底
その時に背を向け
それでも 1歩ずつ後ずさりするしかなくて

見渡せば 取り巻く人々の群れ

ああ、あなた達は そんな目でこの私を見るのか

憐れみ 驚きと 蔑みと…
恐れと 裏切りと 興味本意と

そんなものが欲しかったのでは
決してないのに

帰還

この広い大地に立っていると
私は自然に還っていく
悠久に営み続けてきた 誕生と死と
足元に咲く草木と同じ私もまた自然そのものになる
誕生と死と その循環の中のひっそりとした たった一つの自然なのだと
大地と戯れ 風邪に抱かれ 空は私を包み込む
駆けてきた馬が突然立ち止り
自然の匂いを嗅いだ
そして首を一振りすると
自然に向かって足を上げ 空に向かって嘶いた
風の中に吸い込まれて行く鳴き声が
私の身体を通り抜けた
千切れた雲を追いかけるように
馬は地平線の彼方へと消えて行く

この大地に背を向けた途端
自然から切り離された私の魂は
人間に戻る

沈みゆく夕陽に向かって

もうすぐ夕暮れです
1日のうちで最も空が鮮やかにひかる時
そのうちに星がまたたきはじめるでしょう
今 鳥が飛びたちました
沈みゆく夕陽に向かって

私はずっとここにいます
大地にしばりつけられたまま
私はずっとここにいます

鳥は 何を思ったのか 飛び立ちました
沈みゆく夕陽に向かって

私はずっとここにいます
私は 草をなでていく風や 木々をうちつける雨を見ながら
ずっとここにいます

人が来ます
でも彼らは 私に気づかずに行ってしまいます
時おり 私の前で火をたき ねむります
でも 朝になるとやはり私に気づかずに行ってしまいます

ここでは動物が 子を産み 子を育て 死んでいきます

それでも やっぱり 私はずっとここにいます