乾杯!

「乾杯!」
殺し屋が、小さく呟いた。そして、スコッチを飲み干した。一杯だけ飲んだ殺し屋は、分厚い報酬を手に持ち、幼い子供の顔を思い浮かべながら、酒場を出て家路についた。

「乾杯!」
花嫁は、一口飲んでグラスを置いた。これで、ようやく妻の座を勝ち取った。花婿との長い駆け引きを思い出し、ほくそえんだ。しかし、これから先の駆け引きを考え、花嫁は小さく溜息をついた。

「乾杯!」
小さな会社にしては、大きなプロジェクトをやり終えた。男はビールを一気に飲み干し、同僚と笑顔で挨拶をしながらひたすら願った。…はぁ、眠りたい。

「乾杯!」
二人は向かい合い、微笑み合った。結婚一周年の記念の日。まだまだアツアツだった新婚の頃。

「乾杯!」
ママが、電話をしながらグラスを上げた。
「…ああ、ちょっと。…お祝い事よ。…いえ、ちょっと、主人が昇進したものだから…」
ママは、パパと昇進を祝うより、その事を友人の奥様に自慢する方が大事らしい。

「乾杯!」
二人は向かい合い、微笑み合った。
「お父さん、長い間、ご苦労様でした」
妻は、定年を向かえた夫に、もう一度ビールを注いだ。…明日から、ずっと家にいるわけね…と。

「君の瞳に乾杯」
ボガードの名ゼリフ。さすが、バーグマン。こんなセリフを言わせるなんて。

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