それなら

全部なかった事にしよう
でなければつらすぎる。

君との時間は、鮮明に蘇る

君のかざした手に重ねた手。
握りしめたはずの手は、この手の中にはない。
言い争った事も
手をつないで歩いた事も
全部なかった事にしよう。

すべて消し去って、
思い出の中から消え去れば
眠れない夜を恐れる事はない。
君のいない時間を、目を閉じて耐えることもない。

それでも、
君の笑った顔。静かに見つめる瞳。
差し伸べた手。
寝ぼけて、
蹴飛ばして、
驚いて、
泣いて。

君はいないっていうのに
君の呼ぶ声が聞こえる。

それなら
全部、なかった事にしよう。
君といた長い時間を空白で埋めて
体中が覚えている君の記憶を
一つずつ消し去って
すべて、なかった事にしよう

そうすれば
一人の眠りは安らいで
一人で歩くのが普通で
一人で迎える朝も
一人の食事も
一人で過ごす事も
一日のすべての時間を
当たり前に過ごす事ができるだろう。

よろしければ、一言どうぞ