一通の手紙

一通の手紙

ユニークな方法で新人作家を応援するgoodbook出版より、グランプリ作品として刊行。

冤罪により死刑囚として過ごしている祖父:健一郎と、父に反発しながら、周りの人たちの思いを理解しようする孫:健太の成長を描いた作品。

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突然の風に家が揺れた。
「だって、死刑囚だろ?」
途端に登美子の平手打ちが飛んできた。何だってんだ! …知らない奴のことなんか!健太は痛みを堪え、母を睨み返した。
「だって本当のことだろう?」
「あなたのお祖父さんなのですよ。もう、そんな言い方をするのは止めなさい」
健太がそんな言い方をしたのは、初めてだった。無造作に言ってしまったことを後悔しながら、それでも、登美子の潤んだ目に気付いて乱暴に立ち上がった。
「僕が言う、言わないなんて関係ないよ。事実そうだし、皆からもそう呼ばれている」 捨て台詞のようにそう言い、勢い良く部屋を出た健太は、ビクッと立ち止まった。リビングの古くなった木製のドアが大きな音を立てて閉まったのだ。ドアは静かに閉めなさいといつも言われている。チェッ、風のせいだ…。
だいたいあいつらが…。
登美子と言い争いになったのは、学校からの帰り同級生の一人と喧嘩になり、制服を汚して帰ってきたからだ。
「お前の祖父さん、死刑囚なんだってなぁ!」
あいつらの言う事は、いつも同じだ。相手になるのも面倒で無視していたら、最近では、やたらと絡むようになってきた。だからと言って、絡まれてきたところで、自分の祖父が死刑囚だという実感があるわけではない。一度も会ったことのない、あいつらから聞かされるだけの話題の人なのだ。初めてクラスメイトに言われた時、何かを見つけては人をからかったり、馬鹿にしたりする連中だ。また、根も葉もないことを言いやがって…と、家に帰って登美子にぶつぶつと訴えた。
「お前の祖父さん、死刑囚だろ? なんて言うんだ。あいつらって、何でああいう馬鹿
みたいなことばっかり言うんだろう?」
あれは、中学一年生の三学期だった。
「健太。その事は、パパが帰ってから話しましょう」
そう言われて、健太は登美子を見つめた。…その事?

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